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PIZZERIA e TRATTORIA CERVO - 東島 実

その「おいしい」は、私が選びました(1) ~ イタリアンレストラン経営者

PIZZERIA e TRATTORIA CERVO

札幌に近い恵庭には、イタリアンの食材にこだわった農家さんがとても多い

料理人の基礎はない。あったのは行動力だけ

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 威厳のあるピッツァ職人をイメージして訪れると、肩透かしを食らう。「僕、よくアルバイトに見られるんですよ」と東島実さんは屈託もなく笑う。その人柄のよさが、スタッフたちとの心地よい接客につながるのだろう。

 いきなり暴露するようだが、そもそも料理人をめざしているわけではなかった。地元の高校を卒業後、専門学校に進んだものの1週間で辞め、バンド活動を始めた。口には出さないが、おそらく挫折をバネにした。アルバイトで渡航費を稼ぎ、23歳でピッツァ発祥の地、ナポリに渡った。

 イタリア語は数えるほどの単語しかわからない。それでもレストランの屋根裏に住み込み、修業させてもらえるように頼み込んだ。ナポリには日本のラーメン店以上にピッツェリアがある。休日は有名店を食べ歩き、どんな食材を使っているのか細かくチェックした。

 「ナポリ人は何でも教えてくれる。自分のピッツァがいちばんだと自信を持ってるから、何も隠さず、材料もすべて見せてくれる」。料理人としての基礎も知識も全くない、まっさらな状態が幸いした。ナポリ流をそのまま素直に吸収することができたのだ。日本で修業していたら、いまのチェルボは、なかったかも知れない。

ナポリのピッツェリアを恵庭で表現したかった

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 帰国後、東京でも、札幌でもない、恵庭の、しかも人通りの少ない住宅街に店を構えた。「家族経営のような、暖かい、こじんまりした店。ナポリの陽気さをそのまま表現したかった」という。自分で薪窯をつくり、燃料は火力の強いナラの木をくべる。たとえ採算が合わなくても、本物の食材を選び、ピッツァ職人としての腕を上げることに集中した。

 オープンして4年、大きな転機を迎えた。ナポリに古くから伝わる職人の技術を守り伝える「真のナポリピッツァ協会」から北海道初の加盟店として認定されたのだ。生地の材料は、小麦粉、水、酵母、海塩のみ。それ以外のものを入れてはいけない。気温や温度、薪窯の温度が仕上がりに微妙に影響し、熟練した技術が求められる。その最終審査を行うために、イタリアの公認審査員も来日した。

 道化師がピッツァを焼くデザインマークを使用できるのは、同協会に認められた店だけだ。その中で、現存する加盟店は世界で245店、うち日本では35店(2010年10月現在)。チェルボのNo.273は、世界に通じる称号なのだ。

たとえば、山内さんのトマト、水本さんのミルク

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 「この看板を掲げる以上、ナポリの伝統を守るピッツァに関しては、イタリア産の食材にこだわりたい。パスタは、うちだけのためにソースにからみやすい、細くて平たい麺をリグリオーリ社に特注しています。これだけは曲げられない」と、決して店のコンセプトからはブレない。

 「札幌に近い恵庭はイタリアンには欠かせない食材を豊富に、しかもこだわって生産している。たとえば、山内農園のチェリートマト、くらちファームのベーコン、水本牧場の放牧牛ミルク。生産者から直に手に入るのが魅力です。直売所の野菜もよく利用します」。

 新しいメニューづくりは?の問いに「いまは創作料理より、むしろ品数を減らして伝統的なナポリ料理に近づけようとしています」と、直球で返ってきた。シンプルな料理ほど難しいが、それで勝負する。

 その言葉を裏付けるように、最近、開店当時から使ってきた薪窯をイタリアで製造された本格的な薪窯に替えた。より理想のピッツァに近づけるために、愛着を手放す勇気。前に進む力。炎がゆっくりと流れ、まるで生命が宿っているかのように燃えている。これが、恵庭のナポリだ。

プロフィール

PIZZERIA e TRATTORIA CERVO 東島 実

Minoru Higashijima
住所:
北海道恵庭市黄金南2丁目 19-7
電話番号:
0123-34-6301

恵庭市出身。23歳でナポリに渡り、レストランに住み込み1年間修業。
帰国後、恵庭市内にチェルボを開店。
2008(平成20)年、北海道で初めて「真のナポリピッツァ協会」の加盟店に認定された。

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