島田農園 - 島田 龍哉
その「おいしい」は、私が育てました(1) ~ 水稲生産者
農業体験を受け入れるのは大変。でも、子どもたちに伝わった瞬間、その苦労は忘れてしまう。
カリフォルニアではなく、ハワイで学んだ農業の原点
いくつもの川が流れ、水に恵まれた恵庭は早い時期から農業開拓が進められた土地だ。水稲農家の5代目、島田龍哉さんは「この辺は、他よりも栄養分の高い水を水田に回すことができる」と聞かされてきた。漁岳を源流に街中を貫く漁川は、やがて千歳川に合流。その周辺に広がる林田地区には、上流にある水田の栄養をたっぷり含んだ水が流れてくる。しかも、土は稲作に向いた粘土質。この辺で栽培された米がうまいはずだ。
中学を出たら、すぐにでも農家を継ぎたかったという島田さん。農業高校卒業後、1年間ハワイで研修を受けた。「カリフォルニアで大規模農業を学ぶはずだったのに、その年から研修先がハワイに。行ってみたら、うちよりも狭い20ヘクタールの農地しかなかった」と笑いながら振り返る。日本の農機具を使えば、すぐ終わるような仕事も、すべて手作業。自分の背より高い草を刈り、大量の虫に悩まされながら、何度日本に帰りたいと思ったことか。でも、そこには農業の原点があった。「あの経験がなければ、雑草を見てもトラクターで通過するような人間になっていたかもしれない。いまでも機械から降りて、這いつくばって草取りします」
恵庭産は、どこで買えるの? ラジオで知った消費者の声
帰国後、通常通りに米を生産し、出荷さえしていれば、地元の消費者にも問題なく流通していると思っていた。ところが、恵庭の地域情報を伝えるコミュニティFM「FMパンプキン」が開局し、番組で消費者と交流を持つうちに、生産者としての意識が変わった。衝撃を受けたのは、消費者からの「恵庭産の米とか、野菜とか、どこで買えるんですか?」という質問だった。
それまでは作物を出荷できれば、それでよかった。どうやって流通し、どんな人が食べているか、まったく知らずに生産していたことに気づく。こんなにおいしいものが、たくさん恵庭で生産されているのに、地元の人にも伝わっていない。「自分たちで、もっとPRしなきゃダメだ」と目覚めた。
先代まで稲作がメインで、あとは麦と豆類。「野菜はつくっていないんですか?」と聞かれ、まずはブロッコリーを作ってみた。稲作農家は収穫が終わると、あとは暇になる。10月以降も収穫できる野菜農家をうらやましく思っていた。消費者の声がきっかけで、いま、稲作と野菜の割合は半々。毎日が楽しくて仕方ない。
子どもたちが農業に興味を持つなら何でもやる
2006(平成18)年から地元の小学校の農業体験を受け入れた。苗づくりから収穫や出荷まで、農業にはいろんな方法があることを伝え、実際の田んぼや農機具を見せながら農作業を体験させる。食べることと農業のかかわりを子どもたちに教える食農教育の出前講座にも出かけた。
児童の1人が、バケツに植えた稲の苗を家に持ち帰り、植えたときから育つまでを写真に撮り、その記録を誇らしげに見せてくれた。「あのときは、ほんとに嬉しかった。農業体験なんて忙しいのによく引き受けるな、と仲間から笑われたけど、やってよかった」と心底喜べる自分がいた。
昔ながらの農作業も体験できるように、コロやプラウなど古い農機具も各農家から集めて大切に保管。子どもたちが農業に興味を持つきっかけが、お笑い番組でも構わないと思っている。いちばん伝えたいことは「いただきます」と「ごちそうさま」の感謝の気持ち。食べるということは、命をいただくこと。その命を育て、運び、調理してくれた人への感謝も忘れない人間に育ってほしいと願う。叱るのが苦手なので、以前は他人の子どもと接するのは避けていた。いまは恵庭に住むすべての子どもたちと農業を通して向き合いたいと思っている。
プロフィール
島田農園 島田 龍哉
Tatsuya Shimada
- 住所:
- 北海道恵庭市林田2
- 電話番号:
- 0123-36-6323
「ななつぼし」「おぼろづき」「きらら397」などの水稲をはじめ、ブロッコリー、カボチャ、ジャガイモ、ビート、大豆、小豆、麦などを65ヘクタールで栽培。将来は果樹にも挑戦したいと、リンゴ、ナシ、サクランボ、プラムなどの試作も始めた。
小学校への出前講座や農業体験にも積極的に取り組んでいる(要事前連絡)。